=救い掬われ=
世界は黒い。 光のもとに目を瞑れば血管が透けて赤く見えるんだと奴は言った。 目を閉じるとオレの世界は暗い。 目を開けても真っ暗なんだ。 ふと、アレルヤの意識が途切れる。 気を失ったまま体を放置しておくのは危険だとかそんなことを考えるまでもなく反射 的に入れ替わる。 この身体は休まらない。 重たい瞼を持ち上げるとそこには空が広がっていた。 違う、あいつの目だ。 アレルヤを誑かしたあいつ。 「悪戯なんてさせてやるかよっ」 突き飛ばされたそいつは目を丸くしている。 「はじめまして、色男さんよォ。 オレはハレルヤ、アレルヤの恋人だ」 間抜け面してやんの。 さんざん可愛がってきた弟分の突然の変貌はショックか? 邪な目でオレのアレルヤに手を出そうとするたびにアレルヤに指示をしたもんだ。 「オレのアレルヤがいつも世話になってんなァ。 だからって手ぇだしたら承知しねぇぞ」 これでこいつがアレルヤを気味悪がればこっちのもんだ。 こいつのことを気にかけているアレルヤには悪いがどうせこいつはお前を純粋にかわい がっている兄貴なんかじゃない。 泣きごとには付き合ってやるから安心しろ。 「そうか…」 意気消沈ってか? 「お前がハレルヤか」 「あぁ?」 体勢を立て直したそいつは意地悪そうに笑った。 「よろしくな、ハレルヤ。 いつもアレルヤを守ってくれてるんだって? 感謝してるよ」 思いのほか柔らかい言葉に心臓がびくびくいいだした。 ちょっと待て。 「なんでオレのこと…」 アレルヤは確かにたまにオレに話しかけたりするけど神にでも祈ってると普通思うもん じゃねぇのか。 「ミススメラギに前に聞いちまったのさ」 あの人、酒癖がちょっとばかり悪いからと苦笑いしているのなんてどうでもいい。 「どうなってんだよ」 「だからさ、誰にでもミスってのがあって」 「だからってオレの存在をやすやすと信じられるなんて正気の沙汰じゃねぇ」 オレの言葉をまるで聞いていないかのようだ。 おかしい、異常だ。 オレを認めるなんて。 「俺には不思議で仕方なかったんだ」 「あぁ、不思議だろうよオレなんて―」 「そうじゃなくてだな、あー、あれだ。 アレルヤみたいな穏やかな人間がどうして平気でここにいるのか。 いや、平気に見えないときだってあるがどうしてもわからない。 そりゃここにいる奴なんてみんな何考えてんのかわからんが。 じゃなくてだな、その…」 わかったよ。 もうわかった、散々だ。 「アレルヤを見てたお前にゃ理解できるってか。 オレが居でもしなきゃあいつが戦えるわけがないって。 生憎だがあいつは意外と出来んだよ。 オレが手伝ったことなんてそう何回もねぇ」 残念だったな、ニヒル野郎。 お前の思うアレルヤは空想だ、まやかしだ。 アレルヤに縋るな。 「あいつだって聖人君子じゃねぇんだよ、バーカ」 そろそろアレルヤも起きれるだろう。 無理やり意識を交代する。 後のことなんて知らねぇ。 あぁ、ハレルヤ。 あいつが呼ぶ声がする。 オレに縋る声が。 神の名を呼ぶようにオレを呼ぶ。 神はいない。
救われたいから神が出来る。 縋りたいから君を呼ぶ。 <<