=砂嵐=



 砂嵐?
 ザーっという音が聞こえてアレルヤは飛び起きた。
 部屋にはテレビは無いし通信機の電源も落ちている。
 宇宙空間で音がするわけもなく廊下に出てみても音量は変わらないところから誰かがた
 てた物音でもなさそうだ。


 それでも耳の奥で乾いた音は鳴り続ける。
「何の音なのかな、ハレルヤ」
 話すに足りない内容なのかハレルヤからの返事は無かった。
「大丈夫、今のは独り言」






「キュリオス、作戦行動に入る」
 加速Gの中では微々たる振動に機体が展開されたのだと分かる。
 アレルヤは2回、大きく深呼吸をして指示をこなしていく。


 故意に繋がれた無線から聞こえる断末魔の声。
 破壊されていくMS。


 破壊してんだろ、お前が


 奇しくも現実に直面させてくれる声が…聞こえない。
「ハレルヤ…」
 僕が甘いと怒ってよ。
 ねぇ、現実を見ろと罵って。 
 


「僕は殺したくなんか…ないんだ」



 自分の声だけが跳ね返ってくる。
 その事実にアレルヤは唖然とした。
「そうだ、助けることだってできるんだ。
 そうなんだよね、ハレルヤ」


 出来るわけがない。
 攻めてくるMSの軍隊。
 ボディーに無数に当たる銃弾。
 逃げても彼等は追ってくる―宇宙の彼方まで。


 自分が生きるためには彼らの命が必要なのは明白だ。
 判っている。
 ただ、それを叫んでくれるハレルヤが、居ない。


「僕は君の言ったとおり偽善者だね」
 こんなにも状況が把握できていて、さらさら死ぬ気は無い。
 いつも彼の叱咤する声のせいにしていただけだ。
「なにか言ってよ」


 耳の奥で砂嵐がうねり狂いアレルヤの叫びが飲み込まれる。 


 あぁ、なんて僕は理不尽な人間なのだろう。
 眼前にそびえたっていた人革連の駐屯基地がアレルヤ感情のブレによって地面に吸い込
 まれるように姿を消した。
 指示では格納庫だけを破壊すればよかった。


「できんじゃねぇかよアレルヤ」
 遠いところから叫ぶような笑い声が聞こえて、プツンとすべての音が途切れた。
 同時にアレルヤの中で何かが音を立てて決壊した。
 何かが、確実に。





「ハレルヤ…」
 返事は無い。
 天井を見つめても彼がいるわけでもないのにアレルヤは自室のベッドに寝転がりながら、
 しきりに眼球を動かした。
 それでも見つからないので、瞼に映るハレルヤの影を探しだす。


「ねぇ、聞いてほしいことがあるんだ」
 眼を開けたら君は隣で皮肉に満ちた笑いを浮かべているのではないだろうか。
「僕の話なんか、聞きたくないかもしれないけど…聞いてほしいんだ」 
 

「僕は君が居て良かった。
 ハレルヤ、君は僕のヒーローだったんだ、…笑わないで。
 平和が訪れたらヒーローはいなくなってしまうのかもしれない。
 守るべきものが自立してしまえば存在価値はなくなってしまう。


 確かにね、僕の心は随分と穏やかになったよ。
 平和じゃないけど、僕は一人じゃないけど。
 それでも僕は君が必要なんだ。



 だから帰ってきて………ハレルヤ」



 僕は一人じゃ呼吸もできないようになるから。










 ハレルヤ。  アレルヤが自分のために作り出した状況を打破するための人格。  平和になれば彼は存在意義を失うのでしょうか。  アレルヤが自分のエゴで引き金を引けたら―。  誰しもが考えそうな話ですが描いてみました。  <<