=ジレンマ焦れず= ある日、気づいちまった。 「土方さんってMですよね」 「は?」 事あるごとに土方さんに言われたから自分がサディスティックな性癖の持ち主なのも、 だからこそ土方さんのことを弄ぶのが好きなのも知っていた。 けれどこの間、自分に超能力のような力があることがわかった。 最初はふざけ半分だったんだ。 旦那への嫌がらせ半分にエスコートしろと言われた女に首輪をかけてみた。 本当は土方さんにかけるつもりだったものを。 「あぁ、安心してください。 MですけどドMじゃないですから」 「安心できるかァッ!!!」 オレにはどこかの皇帝じゃないけれど絶対服従の力があるらしい。 凡人以上の身体能力になった女はことごとくオレの言うことを聞いた。 「Sレンダーにかかったんでさァ」 「なにそのレーダー!? ってか簡素な体とかかってたりしねぇよな…。 男に胸は無いんだよ」 「スレンダーな土方さんが大好きです」 「いらねぇよそんな告白」 その力に気づいてから町中で試してみた(もちろん職務時間内で)。 3回周ってワンと言えって言やぁチャイナ以外みんな従った。 どうも人間にしか効かないらしい。 でもこの人は人間だ。 「土方ァ、犯してやるからケツだせよ」 「死ねよクソガキ」 「死ぬのはアンタでさァ」 この人には聞かない。 王の力を持った人間は孤独になるだなんて誰かが言っていたけれど大丈夫だ。 オレは1人にならない。 「良かったですね」 土方さん。 もしあんたに言葉が効くようならとっくにこの景色はなくなっているだろう。 縁側で昼寝の邪魔も出来ないし山崎を追いかけることも出来ない。 近藤さんにも会わせないで何処かにきっと閉じ込める。 確信だった。 そして必ず殺してしまう、死なしてしまう。 だってこんなに自然に冗談だからこそ死ねと言ってしまう。 オレの脈絡の無い言葉に首をかしげつつ、仕事をしろと言う土方さんは、誰にも囚われ ない人で安心した。 <<