=雨は平等に我らを救うのか=


 毒々しい色をした水滴がきらきらと落ちてくる。
 眉をひそめたくなるような匂いのそれを飲み込む。
 味はしない。
 空へと大きく開けた口は決して多くの水を拾えやしないのに。
 口を開くことしか出来なかった。


 口の端を舐めるようにすり抜けて首、そして服の中を濡らす雨は恵みをもたらすことは
 無いだろう。
 こうやって戦場になった土地は汚染され数年は使い物にならないのだから。
 あとは細菌と転がっている人であったもの次第だ。
 もっとも、俺が知ったことではない。


 重みを増した今日までの戦友は声を上げない。
 だからといって手を離し地面に落ちているものと一緒にはしたくなくて。
 体力をむやみに削るなとまたヅラに怒られそうだと思った。
 ほんとあいつは口うるさい。
「そのくせ怪我人には人一倍優しいんだから傑作だよな」


 一方、怪我人厳しいのが高杉だ。
 あいつ、俺が怪我したら怒るからね。
 白夜叉のくせにとか言って俺その呼び方広めてないからさ。


 呼び方ってったら辰馬だ。
 俺は銀時だっつの。
 確かにさっきの2人よか付き合いは短いけどさ、金時はねぇよ。



 ほんと、ねぇって。
 …ない。



 また、守れなかった。
 すぐ居なくなると分かっているのに人に関わってしまうのは己の性か。
 知り合いが多ければ多いほどなくす確率は高まっていく。
 とはいえ奴らも俺に守られたくてこんな所に立っているわけじゃない。
 むしろ逆だ。
 何かを守るため、それが他者か己の信念かは知ったこっちゃないが、闘っている。


「要は馬鹿なんだよ」
 戦況が悪化してることは誰に言われなくても薄々感じている。
 俺に限ったことじゃない。
 これはただの意地なんだろう。


 俺には信念とかさ、ないんだもん。
 じゃぁ何がしたいのかって聞かれたらこう答えるしかない。
 忘れたよ、って。
 何かあったはずなんだ、きっと考えてたはずなんだ。
 立ち上がりたくなるような折れない心とかそういうのが。
 忘れちゃった、失くしちゃった。


「どうしたらいいと思う?」
 名前すら覚えれなかった友に聞く。
 返事は無い。
 そんくらいわかってんだけど耳を澄ます。


 雨が激しくなってきた。
 どろどろな服が更にべたべたして身体が重い。
 もうすぐ合流場所だからって言っても聞いちゃいないんだよね、わかってるよ。
 ほんともうさぁ―


「助けてよ」
 背中のこいつとか今まで死んだ奴とかさ。
 ヅラとか高杉とか辰馬とか。
 俺とか。



 あぁ、知ってるさ、誰も助けてくれやしないって。


 <<