=偽善者= …またかよ。 電波な人ことクギウチ先生様に「糖分飽和状態液状こと砂糖入れすぎていっそ糖尿病 になって食事制限に苦しめばいい」ココアはペッと捨てられた。 プラスチックのコップにしておいて良かった。 溢さないようにブレザーの内側に隠して走った苦労は通じなかったようだ。 「何もしてないからね!」 そう今回は確信している。 だからこそ 「ココアなんてどこから出したんですかっ!」 「ふふふ四次元ポケットですよ」 だなんてお茶目な会話をするべく策を弄したというのに。 ―っていうのを理由に日ごろの報復活動を行うという二重の理由つきだけど。 「ミカゲくん。君に指令です」 だから何もしてない。 今日は休み時間はずっと寝てた。 なぜか無性に眠かったのだ。 え、なに、それが原因でなんか起こったの!? 聞いてない。 なにそれ、向こうの世界繊細すぎんだろ、それ。 「北館の電灯のスイッチが壊れているようです。 先ほど生徒から直すよう要求されました。 私は向こう側の世界の観察に忙しい。 大至急、修理に向かってください」 「それ先生のしご―」 「私は君の生活費を稼ぐために日夜…」 「…ミカゲ」 文披くん!? 「了解であります、閣下!」 こうして僕に昼休みは電気配線につぶされることになった。 「どうしたの、こんなところに」 「いや、よく呼び出されるなと思って」 確かに放送の呼び出しは僕のためにあるような気がする。 パープール―ルー鳴る度に心臓が跳ね上がる僕はパブロフの犬か。 「そういや雁来さんは?」 「彼女とは常にともに行動しているわけではない」 確かにあの事件以来べたべた度は減ったよなと思いだす。 でも机は相変わらずくっついている。 「真面目な話をしよう」 「へっ?」 こんな時に限って妙に大きな声が出た。 あたりを見渡すと誰もいなかったからそのせいもあるだろう。 「お前はあの人に何か弱みでも握られているのか?」 あの人、弱み? えらく物騒な言葉だな。 ………! 「あー、クギウチ先生?」 「そうだ」 弱み、弱みね。 握られてますとも脅されてますとも。 向こう側とか異分子だとか僕の生活費とか散々ですよ。 でも、そんな話をされても困るのは文披くんだ。 そして僕も友達(と呼んでいいのかな?)が一人減る位の覚悟がいる。 もしも見放されなくても僕まで電波な人間と思われちゃ砂上の城のような一時の安らぎ とも言うべき僕の学園ライフが台無しだ。 「あの人は命の恩人なんだよ。 捨てられてた僕を拾ってくれたんだ」 良し、完璧、同情ぐらいなら問題ない。 これで親の話とかも聞かれないだろうし、聞かれても困る。 「その年で拾われたのか?」 「なんか記憶も無くてさ、転校してきた前の日に道に倒れてたらしい。 これがなんでか勉強とか常識は覚えてるんだけどね」 これは本当。 こんなのスラスラ出てくるなんて役者か脚本家になれるかもしれない。 「それは信じるとしよう」 うん、そうして。 …って疑われてる? 「だからと言って言いなりになる必要はないと思う」 …聞いてたんだ。 傍若無人な先生の言い様を思い出す。 「ココアを投げられるいわれは無いのではないか?」 …見られてた? 鼓動が聞こえる。 緊張して心臓が早鐘をうって止まない。 「感情を素直に伝えるということを俺はお前から教わった」 初めてまっすぐ見た瞳。 それは何かを伝えようとする眼だった。 「…へ?」 感情、伝える、俺。 「あ、…うん」 僕には友達が出来たみたいだった。 文披くんが旧視聴覚室の方を睨みつけていたことは野球帽だけが知っている。 <<